ちょうどその頃、川中島地域が全国区のブランドとして作り上げてきた川中島白桃の担い手が、少なくなってきているという話を耳にしたんです。それで、自分にできることはないだろうかと考えた時に、「そうだ、桃農家になろう」と思い立ちました。もちろん農業の経験はまったくありません。それでも先代が持っていた畑を継ぎ、家族の協力を得て、さらに地域の皆さんに教えていただきながら、一つひとつ桃農家としての知識を身に付けていきました。檀家さんも桃農家の方が多く、皆さん、住職が桃農家を始めたけれどあぶなっかしくて見ていられないと感じたのか、よく声を掛けてくださって。慣れない中で失敗したり奮闘したりする姿を見せていく中で、地域の皆さんとつながり、住職としても認めてもらえるようになったと思います。
地域とのつながりは徐々に広がり、公民館や川中島町住民自治協議会の方ともご縁をいただくようになりました。ある時、桃を使ったお菓子を作れないかという話になって、そういえば以前、「旬彩菓たむら」さんから桃のお菓子を作るための試作用の桃を譲ってほしいと言われたことがあったなと思い出し、たむらさんに連絡してみたんです。そうしたら真剣に取り組んでくださって、この春、川中島白桃を使ったお菓子が出来上がりました。川中島白桃をもっと多くの方に味わっていただきたいという桃農家の思いがお菓子の中にぎゅっと詰まっているようで、本当に嬉しく、ありがたく思っています。
実は今年の桃の花の時期に、地域の皆さんと桃の花を楽しむイベントを開催する予定だったんです。新型コロナウイルスの影響で残念ながら中止となってしまいましたが、美味しいお菓子も作っていただけましたし、ぜひ来年もう一度企画し、開催したいと思っています。
お寺も、川中島白桃も、後世に伝えていくことは本当に大変で難しいことです。だからこそ、圓成寺の住職として、桃農家として、常に自分ができることを考えていきたい。それが地域の皆さんに愛される、桃畑に囲まれたお寺を守ることにつながっていくと信じています。