• 私たちは、生きている限り、日々誰かと会い、何かを成しています。
    その時々で、自分でも思いも寄らないことに巻き込まれたり、
    大きな壁が立ちふさがることもあるでしょう。
    そんな時に、法律という視点を知っておくことで自分を守ることができます。
    夜明けの翼法律事務所の板谷健太郎先生にお話を伺いました。

ますます増える
特殊詐欺

 警察発表によれば、平成29年の特殊詐欺全体の認知件数は前年比約29%増加し、被害総額は約390・3億円とのことです。そのうち振り込め詐欺が約373・7億円と大部分を占めています。小さな国の国家予算に近い額が犯罪者に流れているということです。
 振り込め詐欺は、残念ながら被害に遭った後に弁護士に相談しても、ほとんど被害金の回収につながりません。もちろん、「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」(振り込め詐欺救済法)に基づき、凍結された口座から被害回復分配金が支払われた例もありますが、あまり期待できません。そのため、特殊詐欺の被害を未然に防ぐことが必要です。
 最終回となる本号では、中国春秋時代の人間洞察の兵法書として名高い「孫子の兵法」の一節を取り上げ、逆説的に特殊詐欺を防ぐポイントを考えましょう。

基本的な心構え
「兵は詭道なり」

 「詭道」とは、人の裏をかき、欺くという意味ですので、「戦争とは騙し合いである」という趣旨です。
 詐欺師は、あなたの裏をかき、騙してお金を巻き上げることしか頭にありません。ですから、騙されないためには、相手がどのように裏をかこうとしているかを見抜く必要があるのです。重要なポイントは3つです。

その無備を攻め、 その不意に出ず

この意味は、「敵の手薄なところや無防備なところにつけ込み、その不意をつく」ということです。長野県警察本部の広報によると、昨年に親族をかたる「オレオレ詐欺」の被害に遭った方にアンケートをとったところ、回答者の全員が「具体的な手口を知っていたのにだまされた」と回答しているとのことです。
 つまり、「自分は詐欺の手口を知っているから大丈夫」と思う時点で危険なのです。敵は、どんどん新しい手法を考えて、意表をついてきます。また、詐欺の手口だと気づかせない方法で狙ってきます。そのため、決して用心を怠らず、身に覚えのない請求があったり、「お金が戻ってきます」などと言われたりしたときには、まずは疑ってみることが大事です。
 警察庁の振り込め詐欺対策ホームページには、犯行グループからの電話も公開されていますので、ぜひ参考にしてください。

佚にしてこれを労し、 親にしてこれを離す

 これは、「元気な人を疲れさせ、親しい人を仲違いさせる」という意味です。たとえば、息子を名乗る人から「痴漢で捕まってしまった。すぐに保釈金を積めば釈放されるから送金してくれと言われた」という電話があり、数分後に弁護士を名乗る人からも電話があって保釈金の振込先を教えられた、というケースはいかがでしょうか。
 元気な親でも、このような電話を聞くと衝撃を受け、しかも恥ずかしい内容なので親しい人や身内にも相談できなくなってしまうのです。詐欺師は、こういう心理を利用します。
 平成29年3月の内閣府の世論調査では、「自分は詐欺の被害に遭わないと思う」という人が80・7%でした。しかし、その理由として「いつも誰かに相談するようにしているから」という人は、40・1%にすぎませんでした。一人で決めるのではなく、まずは振り込む前に警察や周囲の人、弁護士などに相談するようにしましょう。

利して、これを誘い、 乱して、これを取る

 これは、「相手をエサで誘導し、混乱に乗じて奪い取る」という意味です。もうかる話やお金が手に入るという話に目がくらむと、冷静な判断ができなくなることを利用します。これは、融資保証詐欺や「もうかります詐欺」などで見られる方法です。
 最近は「劇場型詐欺」といって、証券会社や商工団体などの複数の登場人物が出てきて信憑性をあげるのが特徴です。そして、「保証金を払えばお金を借りられる」とか、「この未公開株や仮想通貨を買っておけば、必ずもうかる」などと思い込ませて現金を振り込ませ、連絡が取れなくなります。
 冷静に考えれば、もうかる話を人に勧めるはずがないのではないでしょうか。もうけ話はすぐに信じないことです。

終わりに

 以上で私の連載は終了です。6号にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。法律を知って、皆様の人生の旅が少しでも良いものになることをお祈り申し上げます。 Bon voyage !

(2018年7月号掲載)

夜明けの翼法律事務所

●代表者  弁護士 板谷 健太郎(いたや けんたろう)
 長野県弁護士会所属 弁護士登録番号32683
 弁護士登録平成17年10月4日 司法修習第58期

●業務内容  法律相談 法律事務一般 裁判代理

●安心して相談予約をしていただくため、当事務所では通話料無料の「フリーアクセスひかりワイド」を利用しております。
 0800-8000-283

  • 〒380-0845 長野市西後町1597-1 長野朝日八十二ビル2階
  • お問い合わせ
  • 026-217-4800
  • 026-217-4801
  • 駐車場
  • ビル併設(ビル西側入口)の立体駐車場。または、ビル西側平面駐車場「ル・パルク」、ビル東側駐車場「セントラルスクゥエア」も利用可能です。いずれも1時間の無料駐車券を差し上げますのでお車でお越しの際はお申し付けください。