善光寺門前の
老舗工芸店に嫁いで。
長野市生まれの長野市育ち。当時は町なかも自然豊かで、学校帰りに友だちと寄り道をしては路地や公園で遊んだりと、のんびり朗らかに育ちました。進学で都会にも出ましたが、離れてみて改めて長野の良さを実感し、親に言われるまでもなく自ら長野に帰ってきました。
縁あって夫と出会い、明治26(1893)年創業の老舗、「武井工芸店」に嫁ぐことに。それまで公務員の家庭で育ってきましたから、商家のしきたりや行事など初めてのことばかりでしたね。中でも大変だったのは、工芸品の知識です。覚えることが多くて、お客様に教えられることも多々ありました。ひたすらに教えを請い、学びながら一つひとつ覚えていきました。
そんな日々の中、同じ大門町にあった老舗の畳問屋「中惣商店」が店を閉じることになって、店舗として使用していた歴史ある町家を壊すという話を聞いた夫が、「この町並みを守らなくては」と名乗りを上げ、そこから「門前茶寮 彌生座」の歴史が始まったのです。
信州の山の幸の美味しさを
善光寺門前から伝えたい。
以前から、工芸店を訪れるお客様に長野の美味しいものを聞かれていた夫は、信州そばとおやきの他にも、長野の旬の味を楽しめる店が必要だと考えていました。そこで彌生座では、素材本来の味を引き出す「蒸す」という調理法に着目し、信州の旬の食材の美味しさをそのまま楽しんでいただける「山のせいろ蒸し」を考案。木曽五木のひとつであるサワラ材を使った30㎝四方の大きな「せいろ」を特注し、松花堂弁当のように四季折々の野菜や信州牛、おこわや茶わん蒸しなどを彩り良く盛り込んで蒸し上げました。初めてご来店されたお客様は皆、蓋を開けた時に立ち上る湯気や、色鮮やかな野菜に歓声を上げられます。その笑顔やお声を聞くことが、私たちにとって至上の喜びです。地域の皆さまにご愛顧いただき、「門前茶寮 彌生座」は来年30周年を迎えます。これからも、長野の郷土料理や精進料理などを活かした創作郷土料理で、信州の食文化を伝えていきたいと思います。
旬彩菓たむらさんとは、武井工芸店をご愛顧いただいている関係もあり、古くからのお付き合いです。蕎麦朧は、口に含んだときのホロホロッとしたくちどけが大好きなんです。忙しくも充実した一日の終わりに、好きな器と好きなお茶を用意して、ゆったりと丁寧に味わう。そんな至福のひとときにふさわしいお菓子だと思います。
四季折々、旬のお菓子づくりを大切にされるたむらさんの姿勢は、同じ「食」に関わる身として、いつも感動させていただいています。彌生座も、できる限り旬の食材をご用意し、その季節ならではの美味しさを、皆さまへお届けしてまいります。