• 今まで廃棄されてきた素材を
    アップサイクルすることで
    新たな価値を世界へ発信していく。

    • 株式会社SORENA
      代表取締役
      伊藤 優里さん



 2015年の国連サミットで「SDGs」が採択され、2030年までに達成すべき世界共通の目標が示されてから、来年で10年。私たちは、持続可能な社会へと舵を切れているのでしょうか。
 このシリーズでは、さまざまな課題解決のために、長野の企業や団体がどんな取り組みを始めているのかをご紹介します。今回は、株式会社SORENAの伊藤代表にお話を伺いました。

子どもたちに未来を語れる
自分でありたい。

 高知生まれの大分育ち。長野とのご縁は大学進学がきっかけでした。感性工学に興味を持ち信州大学の繊維学部に進学後、そのまま長野県内に就職。フルーツの加工会社で原料調達に携わる中で、果物の生産量が多い地域であるにもかかわらず輸入に依存している現状や、輸入中に傷んで規格外となり、廃棄処分される果実の多さに違和感を覚えるようになりました。結婚して子どもを育てる中で、このままでは自分の子どもも含め、次の世代に安心して暮らせる社会を引き継げない。希望ある未来を子どもたちに語れないと、危機感を持つようになったんです。
 そんな折、2019年に発生した台風19号で、アップルライン沿いのりんご畑が一面水に浸かって泥だらけになった映像に衝撃を受けて。廃業してしまう農家さんもいると聞く中で、何か私にできることはないだろうか、自分が今まで学んできたこと、やってきたことで、りんご農家さんに貢献できることはないだろうかと、強く考えるようになりました。
 そこで思い付いたのが、りんごの残渣を使って作る「りんごレザー」です。りんごを使用した合成皮革が海外で作られていることは知っていたので、信州のりんごの残滓をアップサイクルし、「りんごレザー」を国内で製造することができれば、本物の革に負けない独自のストーリーで新たな価値と感動を創造することができると思ったんです。

地域課題は社会課題。
「それな!」の発想で変えていく。

 思い付いたら即、実行。2021年4月に株式会社SORENAを設立し、同年7月にプロジェクトを始動。11月に「信州ベンチャーコンテスト」で奨励賞を受賞し、さらに翌2022年2月には、飯綱町で開催されたビジネスコンテスト「いいづな事業チャレンジ」で準グランプリを受賞することができました。いずれも地域課題であったりんごの残渣を活用し、新たな価値を持つエシカルな商品を生み出すことを評価していただけたのだと思います。その後、飯綱町と大手メーカーさんとタッグを組んで試作品を完成させ、2022年11月に特許を出願。国内初となる「りんごレザー」を完成させることができました。
 「りんごレザー」は、従来の合成皮革に使用される石油由来のポリウレタンの配合量を、約3分の2に抑え、植物比率は60%以上。しっとりとした手触りで、天然の革にも負けない高い耐水性、耐久性を実現しています。色は木で真っ赤に熟したりんごを思わせるダークレッドと、シックなブラックの他、緑、黄色、茶色など全8色。生地の表面には独自の風合いがあり、上品で高級感があります。展示会などでは、サステナブルな社会の実現やエシカル消費に高いアンテナを持つ方たちから共感をいただき、持続可能な活用できる素材として注目されています。SORENAでもりんごレザーを活用した商品を開発し、バッグやキーケース、財布などをオンラインショップで販売しています。
 今後は、あらゆるサステナブルな素材を扱う商社として世界に情報を発信するべく、新たな素材開発にも取り組んでいきたいと考えています。りんごレザーはもちろん、りんごのボタンや和紙、さらに「信州エシカルペーパー」「信州バイオマスプラ」のプロジェクトも起ち上がっています。それらすべての行動の原点にあるのは、子どもたちに自信を持って引き継げる社会の実現です。そのために今、大人である私たちができることを考え続けていきたいと思います。

お問い合わせ

  • 株式会社SORENA
    〒380-0821 長野市大字鶴賀上千歳町1137番地23
    長野1137ビル2F BPN
    TEL 026-217-1039 FAX 026-217-1542

(2024年7月号掲載)