― (田村 洋氏)今日はよろしくお願いします。朝陽館さんは中央通りにあるそうですね。歴史のある本屋さんだとお聞きしました。
―荻原 こちらこそよろしくお願いします。朝陽館は明治元年創業で、私どもの代で6代目となります。2年ほど前に一度閉じまして、そこから内装やコンセプトを再構築し、昨年12月にオープンしました。独自の視点でセレクトした書籍と雑貨を提案するとともに、本のある時間を豊かに過ごしていただきたくて、喫茶も併設しています。
― それは素敵ですね。皆さん、ゆったりと本の世界を楽しんでいるんでしょうね。喫茶ではお菓子も出しているんですか
―荻原 店ではコーヒーに金平糖を付けて提供しています。実は私は大の甘党でして、特に餡子が大好きなんです。餡子をアテに酒が飲めるくらいで。たむらさんのどらやきも大好きで、本店にもながの東急店にも、よく寄らせてもらっています。
― ありがとうございます。なんだか照れますね。
―荻原 本店に伺うと、どれもこれも欲しくなってしまって。特にたむらさんのどらやきは、つぶ餡の豆がしっかりと残っていて、皮とのバランスもよく自分好みです。なんというか、ちょっとワイルドな感じがします。
― これは嬉しいですね。たむらでは菓子によって餡の炊き方も変えているんですが、どらやきの餡は自分の代で大きく変えています。餡って不思議なもので、同じ材料や分量で炊いても、炊く人間によって仕上がりが違ってくるんです。自分の無骨さや、こうしたいっていう強い「思い」が反映されるんだと思います。
―荻原 職人の言葉ですね。重みがあります。実は喫茶を開くときに、自分の好きな餡の菓子を出せないかと、自分で餡を炊いてみたり試行錯誤したんですよ。でも餡の世界は奥が深くて諦めたんです。
― 自分で餡を炊いたんですか。それはすごい。餡に対する愛情が伝わってきます。これは今回、気合を入れなければならないな。
―荻原 いやいや、でも今回は本当に楽しみにしていて。本屋なので、お話をいただいてから、どらやきの歴史について少し調べてみたんです。弁慶がふるまったとか、銅鑼の形に見立てたとか諸説あったんですが、その中に、昔のどらやきは四角かったという記述があって。うちは本屋なので、本に見立てた四角いどらやきがあったら素敵だなと思ったんですが。
― ああ、それは小倉草紙ですね。どらやきとは違う製法で作った皮に、羊羹を挟んで四角く仕上げたものだと思います。
―荻原 小倉草紙ですか。初めて聞くお菓子です。草紙って昔の書籍のことですよね。それって昔の人も、そのお菓子を本に見立てて名前を付けたということでしょうか。
― そう言われればそうですね。今、小倉草紙を作っている店は全国的に見てもほぼ無いと思います。でも不思議ですね。昔の人の発想と同じことを、今の時代に荻原さんが思いつくなんて。
―荻原 昔は、本は大変貴重なものでした。今は逆にスマートフォンなどに押されていますが、本というものの存在意義は絶対にあるはずなんです。和菓子の世界にも、本を模した菓子を新たな形で復活させることができれば、本屋としてはもう最高ですね。
― これは難問だな。どらやきの皮は型に入れれば四角にはなるだろうけど、折れないので本の背を作るのは無理なんです。ということは、皮をどうにかしないといけない。皮を変えると、中に挟む餡の水分量も変える必要があります。皮と餡、そのふたつのバランスが合って初めて、美味しいと思える菓子になるんです。いや、これは今回本当に難しい。販売は8月中旬からですよね。季節のことも考えないと。
―荻原 なんだか希望ばかりですみません。自分としては、もう楽しみで期待しかありません。
― こちらこそ、新しい発想をいただいてありがとうございます。とにかく頑張ってみます。