• 陶芸と出合えたことで
    自分の人生の幅が
    倍になったように
    感じています。

      • 善清窯
        陶芸作家

        村井 善晃

        Yoshiaki Murai


      • 日展作家
        日本現代工芸美術家協会本会員
        長野県美術展・北信美術展審査員
        長野市文化スポーツ振興部文化芸術課 課長補佐兼 伝統芸能推進室長

大人になってから出合った
陶芸に魅せられて。

 陶芸との出合いは、仕事の一環として子供たちと参加した陶芸体験でした。それまで陶芸に全く関心はなかったのですが、子供たちと一緒になって土と向き合い、黙々と自分の手で形を作り上げていく時間がとにかく楽しくて。ただの粘土の塊が、自分だけの唯一の「もの」になることの喜びや、焼き上がった作品を手にした時の感動が忘れられず、すぐに先生を探して陶芸を学び始めました。
 「楽しいから作る」ことを繰り返す中で、当初は料理に合う器など、自分の暮らしを豊かにするための作品を主に作っていたのですが、技術や経験が蓄積されていくにしたがって、徐々に「自己表現として作品を作りたい」という思いが強くなり、思い切って自分の窯を開きました。それ以降は全国各地の作家を訪ねながら、独自の表現や技術を試行錯誤し、展覧会に出品して賞を受賞するなど、作家としての可能性を追求し続けています。ここ数年は、全ての源である宇宙を表現した作品に取り組むとともに、小学校や市立公民館などで陶芸の楽しさを子どもたちに伝える活動にも力を注いでいます。
 陶芸には「終わり」がありません。どれだけ技術や知識が豊富になっても、実際に焼き上がるまではわからない。最後は「炎」に委ねることになります。思い通りにいくこともあれば失敗することもあります。そんな中、時に自分の想像を超えた作品に仕上がった時の感動は何ものにも代えがたく、この瞬間の喜びを知ってしまった以上、自分は死ぬまで作品を作り続けていくんだろうと思います。

陶芸作家としての経験が
仕事にもプラスに。

 陶芸作家としての経験や知識は、仕事にも活かされていると感じます。NHKの大河ドラマ「真田丸」が放映された時は、長野市観光振興課の職員として、「体感!! 戦国の絆 信州松代真田大博覧会2016」の実行委員会の事務局を担っていたのですが、その際に「松代らしいお土産が少ない」という観光客の声を多く耳にしたんです。そこで「真田丸」で知名度が向上した松代の新たな魅力のひとつとして、松代独自のお土産の開発を検討するべきなんじゃないか、と考えた時に思い浮かんだのが「柴石」でした。
 柴石は、1560年に築城された松代城の石垣にも使われている安山岩です。松代の金井山、特に柴地区で古くから盛んに採石されており、真田十万石の城下町を支える産業として成長し、現在も石垣や石畳として利用されています。この柴石を粉砕した粉を粘土に混ぜ、松代焼の窯元と連携して、松代の素材と陶芸のコラボ作品をブランド化できないか、と考えたんです。
 幸いにも松代の窯元の皆さんからの協力も得られ、各窯元の個性豊かな「六文皿」が松代の新たなお土産として発売されました。現在は、主に松代荘や各地の観光イベントで販売されています。
 現在は、長野市文化芸術課に所属し、9月22日・23日に初めて長野市芸術館で開催される「伝統芸能こどもフェスティバル」の準備に取り組んでいます。企画のひとつとして、観覧の皆さまに伝統芸能、伝統工芸の良さを伝えるため、陶器の箸置きをプレゼントしようと制作を進めているところです。
 松代の新たなブランドの立ち上げや、伝統芸能を若い世代に広く伝えていくことに、陶芸作家としての知識や経験を活かし、長野市を盛り上げる一翼を担っていることに誇りを感じます。
 これからも陶芸作家として、市職員として、どちらも楽しみながら前向きに取り組み、自分なりの生き方を追い求めていきたいと思います。

(2019年7月号掲載)