ふと見まわしてみれば、周りには飯山の豊かな自然や田畑、子どものお守りをしながら農作業に精を出すお年寄りたちがいました。この日本の原風景ともいえる世界を人形に込めて残したい。いずれは見ることができなくなるものを伝えていく使命がある。今は、そんな思いで人形を作っています。
例えば「お迎え」というタイトルの人形があるんですが、これは私の体験から作っています。ある雨の日に義父が「子どもたちが傘を持っていかなかった」といってソワソワしていて。私は、「自分で忘れていったんだから、濡れて帰ってくれば今度から持っていくようになるでしょ」って放っておいたんですね。そうしたらいつの間にか義父の姿が見えなくなっていて、どこに行ったんだろうと探したら、子どもたちの傘を抱えて学校までお迎えに行っていたんです。その後ろ姿を見た時に、子どもたちを愛おしく思ってくれている心や情の深さを感じて、涙が出そうになりました。日常の暮らしの中にある愛のある情景は、何気なく過ごしていると見過ごしてしまいがちですが、実は身近にたくさん溢れています。そこにある情、「想い」も合わせて、心を込めて人形を作っています。私の人形を見た人が、そのメッセージを受け取ってくれれば幸せですね。
また、人形たちが着ている服は、実際に義両親や地域の人たちが農作業や日常で着ていた洗いざらしのものを使っています。人の暮らしとともにあった衣類や手ぬぐいなど、嘘のない風合いが人形に命を吹き込んでくれていると感じます。これからも地域の皆さんのご協力をいただきながら、心に響く世界を形にしていきたいと思います。
「高橋まゆみ人形館」では4月から展示内容を入れ替え、飯山在中の和紙作家さんとのコラボ作品も展示する予定です。春の飯山はゆったりと流れる千曲川や菜の花、満開の桜など、幸せな風景がいっぱい。どうぞ美しい飯山と、そこに生きる人の「想い」を込めた人形に会いにきてください。