• お人形は、
    ご家族の思いが込められた
    人生を共に歩む
    一生のお守りです。

とことん突き詰めたからこそ
今の自分がある。

 人形の山川の前身は、「トイズヤマカワ」というおもちゃ屋です。昭和44年に父が屋代駅前で商売を始めた頃は、まさに高度成長期の真っただ中。クリスマスが近づくと店内がお客さんであふれていたことを覚えています。小学校の頃は友だちから羨ましがられていましたね。
 学生時代は店を継ぐ気はなく、中学から始めたギターやバンド活動に夢中になっていました。高校時代は当時各地で開催されていたバンドコンテストにもよく参加して腕試しをしていました。その後、大学進学とともに東京に出て、オールディーズ系のライブハウスでアルバイトをしていた時に声をかけられて。いくつかのバンドを掛け持ちしながらキャリアを積んで、大学卒業後はそのまま音楽事務所に入って音楽で生きていこうと思っていました。ただ実際に業界に入ってみるとさまざまなことが見えてきてしまって。いろいろと悩んでいた時に心に響いたのが、人形師の人形と向き合う姿勢でした。店の繁忙期を手伝っていた時に出会った作家さんの、理想の人形を作りたい、とことん突き詰めたいと願う欲求はどこか音楽にも似ていて。渾身の技で作られる人形をご家族に巡り合わせるこの仕事に、魅力を感じるようになりました。自分自身がとことん音楽にのめり込んだからこそ、共感できたのだと思います。

お子様の守りとして
大切にしてほしい日本の文化。

 時流を読んで取り扱いを節句人形に絞り、「人形の山川」として現在の場所に移転させた父は、寡黙な人で商売も「見て覚えろ」のタイプ。長野に戻ってからはとにかく必死で、仕入れから接客まで日々経験を重ねました。その中で多くの人形師の方々と出会い、お話を伺う中で、自分の思う人形専門店の在り方も見えてきたように思います。
 例えばお雛様といえば昔は7段飾りが主流でしたが、今は住宅の事情などもあり、男女一対の内裏雛を飾る「親王飾り」が人気です。だからこそ、技の光る、丁寧に作り込まれたお雛様を厳選し、お届けすることが私の使命だと感じています。店内では、人形師によって違う全体のバランスや衣装の配色、柄、お顔立ちなどもじっくりとご覧いただけるよう配慮しています。表情が愛らしい木目込のお雛様を選ばれる方も増えてきています。最近はおじい様、おばあ様だけでなく、ご両親も一緒に来られて仲良くお雛様を選んでいらっしゃいますね。山川ではお雛様と一緒に、未来のお子様に宛てて思いを書き綴る手紙をお渡ししています。お子様が大人になった時に、祖父母や両親がお雛様にどんな思いを託したのかを伝えることも、大切だと思うからです。
 お雛様は本来、生まれた子の健やかな成長を願い、その子を一生守る、お守りのような存在です。せっかく愛情を込めておお雛様を買っても、最初の2、3年だけ飾って、出すのが大変だからとしまい込んでしまうのは本末転倒です。1年に一度、親子でお雛様を飾ることそのものが大切な思い出となり、その積み重ねは愛情の積み重ねでもあります。お子様自身がお雛様を手にとって飾ることで、ものを大切にする心、感謝する心も自然と身に付くのではないでしょうか。大人になっても、結婚しても、年をとっても、一生自分を守り、共に人生を歩む存在として、お雛様を慈しんでほしいと思います。
 日本には四季があり、折々に美しい伝統文化があります。季節ごとに訪れる節目を大切に、丁寧に暮らすことは、人生を豊かにすることにつながると感じます。人形を通して日本古来の文化を守り、愛情を伝承するお手伝いができればと思います。

(2021年2月号掲載)